ICE
InterCity Express

ICEは1988年にノースコースト線のブリスベンとロックハンプトンの間を結ぶ長距離列車、 スピリットオブカプリコーン用の車両としてウォーカーズリミテッドで製造されました。
20両が製造され、4-6量編成で運用しています。
スピリットオブカプリコーンから撤退後は、ブリスベンからギンピーノースまでの サンシャインコースト線の普通列車に転用されました。

ICEはブリスベン~ロックハンプトン620kmの電化の際に、長距離列車スピリットオブカプリコーン用の車両 として1988年にデビューしました。
最高速度120kmで、同区間をおよそ9時間半で結びました。 その後、同区間は1998年にティルトトレインが登場、最高速度160kmの振り子式 であるティルトトレインはICEよりも所要時間を2時間短縮しました。
スピリットオブカプリコーンは土曜日の1往復のみの運行となり、ディーゼルタイプのティルトトレイン が2003年に登場したことによって長距離運用からは全て撤退、シティトレインに転属しました。

ICEはシティトレインとしては最長距離であるサンシャインコースト線ブリスベン~ギンピーノース172kmに 充当されました。


ICEは長距離列車として製造されたため、乗降扉は片扉が2つ、車両の両端にあります。
現在活躍しているシティトレインの中で唯一片扉となっています。
また、編成も5両~6両と変則的な組み合わせが可能です。

20両の内訳は
運転台付電動車 8両 EMD5151-5158
中間電動車 8両 EMM 6151-6158
中間付随車 4両 EMT 7151-7154

1990年11月には8両編成で運転したこともありました。


スピリットオブカプリコーンから撤退後は一時的にゴールドコースト線等で運用されていましたが、 シティトレインとしては最長距離であるサンシャインコースト線ブリスベン~ギンピーノース172kmの 運用に限定されるようになりました。この区間はスピリットオブカプリコーンとして走行していたため、 走り慣れた線区に帰還した形になります。スピリットオブカプリコーンとしては 実質10年ほどしか使用されなかったため、客室設備も殆ど改造されることなく運用に当たりました。

登場当初はライトは運転台上部のみの設置でしたが、後の改造で運転台下にもヘッドライトが追加されました。


シティトレインに転用後、増設されたヘッドライト。

このヘッドライトが無かった時代は、クイーンズランド鉄道初の電車であるEMU に近い外観でした。


行先表示機。

方向幕を用いた行先表示機です。
登場時から使用しているものと思われます。
スピリットオブカプリコーンとして運用される際は、ROCKHAMPTONの行先を掲げて走行していました。


改造された行先表示機。

磁気反転式に改造された行先表示機。
本来の枠に対して、やや上方向にズレています。



パンタグラフ。

25kv対応のシングルアームパンタグラフです。
スピリットオブカプリコーンで使用されていたころから変わっていません。


乗降扉。

片扉で、扉は内側に開きます。
登場時は扉の開閉は完全に手動でしたが、2001年の改造により自動で閉まるようになりました。
開ける際は手動のまま変更されませんでした。







車両号車案内表示。

長距離列車として使用していたこともあり、号車案内表示機が一部を除く各ドア横に設置されています。
4-6両と変則的な編成であったこともあり、当時は必要な設備でした。
表示方法は幕を使用していたか、もしくは号車内容の書かれたステッカーを差し込んで使用していたと思われます。
普通列車として使用されるようになってからは表示をする意味も薄れ、末期は故障しても 修理されることはありませんでした。

A号車~F号車まで。
ステッカーによる表示の他、直接マジックで描かれたものや、もはや何も表示していないもの など、クオリティがバラバラです。


運転室のスペースは、従来のEMU電車と比較するとかなりのスペースが確保されています。
そのため、先頭の乗降扉は先頭よりやや中央寄りとなっています。
長距離列車として製造されたため運転室を広くしたのか、若しくは機器類が大型化したためこのように なったと思われます。


乗降扉。

車両内側に開きます。
正に只のドアといったところで、自動では開きません。
閉まる際は自動に改造されました。
折り戸式ではない1枚扉は日本では見られません。



扉の下中央には出っ張りがあり、これが扉開閉時にデッキ妻面のストッパーに押し込まれると 扉が開いた状態で固定されます。
扉を半開きにした場合は、自然に閉まるようになっています。
乗務員が扉を閉める操作をすると、妻面のストッパーが開放され、扉が閉まる仕組みとなっています。

これを告知する案内表示が各ドアに貼られています。

扉が閉まる際は車両内側から外側へ扉が閉まるため、乗降口ギリギリで立っていた場合はドアが閉まると共に 車両の外に押し出されてしまいます。

電車に乗って旅立つ人とホームにて見送る人が乗降口でギリギリまで別れを惜しむ光景がありますが、
ICEの場合だと旅立つはずの人が閉まる扉によってホームに押し返され、乗車できなくなってしまうというシュールな 展開になってしまいます。


車内。

2+1の回転リクライニングシートが並んでいます。
長距離列車として使用した過去があるため、内装はシティトレインの中で一番豪華です。
オーストラリアで運用される普通列車で唯一のリクライニングシートです。


二人掛けのリクライニングシート。

運用区間のサンシャインコースト線ブリスベン~ギンピーノースの172kmを乗り通すのに全く問題ない 座席です。
スピリットオブカプリコーン時代の9時間半の乗車でも、十分な設備です。


車両の置き換えも具体化し、大掛かりな修理をされることがなくなったため、経年劣化が目立ちます。


一人掛けリクライニングシート。

オーストラリアの普通列車において、唯一の一人掛けリクライニングシートです。
オーストラリアで一人掛けの座席は珍しく、長距離列車のスピリットオブクイーンズランド のレールベッドクラス、ティルトトレインのビジネスクラス、 ジ・オーバーランドのレッドプレミアムクラスしか存在しません。


リクライニング角度はそこまで深くはありません。
とはいえ、普通列車として使用するには十分な設備です。


長距離列車として使用されていたことが伺える、大型のテーブルが設置されています。
伸びきったシートポケットが時代の流れを感じさせます。


頭上にはスポットライトがあり、手元を照らすことができます。



窓にカーテンは無く、窓の上にあるハンドルを操作するとブラインドカーテンが下りてくる仕組みです。
ブラインドカーテンは窓ガラスと窓ガラスの間に下りてくるため、触れることはできません。
このような仕組みは、日本ではサシ181形100番台からの在来線食堂車、581・583系、381系の客室窓に使用 されていました。

窓によっては下の画像のように故障しているものもあり、この状態になってしまうと利用者はどうすることも できません。


デッキ仕切り扉。

先頭の運転台後部のデッキを除いて、デッキ仕切り扉が設置されています。
吊り掛け駆動による120kmの爆走運転の騒音をシャットアウトします。
片開きの押しボタンによる半自動ドアです。


車両妻面にもテーブルが設置されている他、大型のフットレストもあります。


通路上には監視カメラが設置されています。


車内は飲食禁止となっています。

乗車時間も長く、飲食を楽しめる大型のテーブルも設置されていますが、長距離列車ではない普通列車での飲食 は認められていません。
食品のゴミの放置や、オーストラリアの食事はパンやパイ、マフィンやクッキー等の食べ物のクズが発生しやすい食品が多いため、 車内美化のためには飲食の制限が必要となってしまいます。


車両間仕切りドア。

車両連結部は両開きの手動ドアで仕切られています。


車両間仕切り部分。

乗降扉が内側に開くため、扉開放時は半分近く塞がれてしまいます。


デッキのトイレ及び荷物スペース。

長距離列車時代のものと思われる、大型の荷物スペースがあります。



トイレ。

恐らく登場時からリニューアルされていると思われます。
バリアフリーには対応しておらず、車椅子での単独利用は困難です。



現在は使用されていない乗務員操作領域。

恐らく長距離列車時代において使用されていたものと思われます。
シャッターの中に何が入っているのかは不明です。
推測ですが、お絞りや飲料のサーバー等の客室サービス品が保管されていたのではないかと思われます。


運転室後部。

運転室後部のデッキは客室との仕切り扉がありません。
また、この付近は車椅子スペースとなっています。
客室内では一番走行音が響くエリアとなります。
運転室との仕切りに窓は無く、前面展望はできません。


夜のノースギンピーに到着したブリスベンからの最終電車。


早朝のギンピーノース駅で出発を待つブリスベン行きの始発電車。


ギンピーノース駅を出発したICE。


ノースギンピーを出発し、ブリスベンローマストリートまでの170km超の旅が始まりました。

ノースギンピー周辺は1989年に電化の際に造られた新線区間です。
旧ギンピー駅は貨物駅に格下げ後、1995年に廃止となりました。


ノースギンピー近郊を走行するICE。

増設したヘッドライトは夜間のみ使用するのか、点灯していません。


セントラル駅に到着したローマストリート行きICE。

あと一駅で終着となります。


夕刻のローマストリートで発車を待つICE。


半地下構造のセントラル駅で発車を待つICE。

この日はトラックワークの影響で、セントラル駅から乗車できる最後のギンピーノース行き電車でした。
なおセントラル駅は特に撮影に厳しく、この後駅員に少し注意されました。


ICEの車内散策と外観、ギンピーノース駅での走行風景の4K動画です。
車両間の貫通扉の無骨な閉まり方が素敵です。


ローマストリートからセントラルまでの1区間の乗車とセントラル駅発車風景の 4K動画です。
重厚な走行音が響き渡ります


ボウウェンヒルズ駅近くの車庫でSMU260と並ぶICE
左奥にはEMUが留置されています。
ICEはEMUと登場時期が近いためか、併結運転することができます。
場合によってはICEの運用をEMUで代走することもあったそうです。




長距離列車スピリットオブカプリコーンから普通列車に格下げとなったICE。
結果的には普通列車として活躍する期間の方が長くなり、乗り得列車となりました。
しかし寄る年波には勝てず、ついにNGRに置き換えられることになりました。
サンシャインコースト線を吊り掛け駆動で時速120kmで爆走する姿は過去のものとなってしまいます。


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