シドニートラム博物館の長崎電気軌道1050形1054号(元仙台市電モハ100形121号)

長崎から遥か遠く、南半球オーストラリアのシドニーにあるトラム博物館にて動態保存されている 長崎電気軌道1050形1054号は、元仙台市電モハ100形121号でした。
この車両は世界で唯一走行可能な1050形、仙台市電の車両となります。

シドニートラムウェイミュージアムは、オーストラリア最古の路面電車博物館で、南半球で最大規模を誇ります。
シドニーの郊外ロフタス駅のすぐ隣で、シドニートレインズでセントラルから30分程で到着できます。
シドニートラム博物館は毎週日曜日と水曜日のみ営業しており、博物館が所有する路面電車のどれかの車両が 毎時1本程、敷地内のナショナルパーク線を走行します。
ナショナルパーク線の動態保存車両の体験乗車は、シドニー生え抜きの車両のどれか1両は走行 することが多いようです。車両交換も行われるので、1日いても飽きません。


職員に日本から来たことを告げると、バックヤードに案内してくれました。
そこには、車庫内でシドニーのトラムと一緒に眠る長崎電気軌道1050形1054号(元仙台市電モハ100形121号)の姿がありました。
1976年3月に廃止された仙台市電(仙台市交通局)の1952年製モハ100形電車5両が同年に長崎電気軌道に譲渡され、 この1054号(仙台市電121号)は1990年まで長崎で活躍しました。
1992年に1054号はシドニーにやってきました。


ご好意で、車庫から外に出してもらいました。

長崎電気軌道1050形1054号から大きく改造されることもなく、長崎時代の姿を保っています。
変更点の一つとして、Zパンタグラフがポール集電に交換されています。
仙台市電のときはポール集電だったので、より仙台時代の原型に近くなりました。

以降の写真に共通していることですが、訪問時はオーストラリアの記録的な山火事の影響で、 どの写真も少し黄色っぽくなっています。


1976年3月に廃止された仙台市電(仙台市交通局)のモハ100形電車5両(117 - 119・121・124)は、 西鉄北九州線100形の廃車発生品であるK-10型台車を組み合わせ、ワンマン運転対応の半鋼製ボギー電車として 長崎電気軌道に譲渡されました。
形式は当初「900形」が予定されていましたが、9という数字が苦・窮といったマイナスイメージを連想させることから、 仙台にちなんだ「1000」と、譲渡・運行開始の1976年の元号である「昭和51年」にちなんだ「50」を組み合わせて 「1050形」と命名されました。
1054号は1990年12月5日に、同形車両としては2番目に除籍されました。(最初の除籍車両は同月3日の1055号)
2001年以降、1050形は1051の一両のみとなり、同車は1985年(昭和60年)に開業70周年記念事業の一環として 仙台市電当時の塗色に戻されました。冷房装置がないため通常の営業運転では使用されず、 イベント時などには臨時運行されたいました。 方向幕が小さいため系統番号を併記できず、系統板を掲出して表示していました。
動態保存の維持管理が困難になったため2019年(平成31年)3月30日にさよなら営業運転を行い、翌31日をもって引退しました。
この日をもって、走行可能な1050形は、シドニーの1054号1両のみとなりました。


車体構造は、中央に乗車扉、進行方向の前方左手側に降車扉が設置されています。
登場当初は車両両端に扉がある配置でしたが、ワンマン化の際に現在の形に変更されました。
これはプラットホームが対向式のみの路線で、乗降扉が必ず進行方向左側となる場合に、 客室内を最大限に活用できるレイアウトとなります。
ちなみにオーストラリアも日本と同じ左側通行です。
但し、プラットホームが必ずしも左側にくるわけではないので、乗車口、降車口を分けて運用していません。


乗車口。

戸袋の窓が、他の客室窓に合わせて2段窓風になっています。


入り口の案内。

ワンマンカー
入り口
危険物及び鳥獣の持込みはかたくお断りします

長崎電気軌道は現在も盲導犬や聴導犬など介助犬以外の動物の持込みを禁止しています。


長崎電気軌道のロゴマーク。

英語表記は
Nagasaki Electric Tramway Co., Ltd.


出口の案内

ワンマンカー
出口
乗車は後扉から→

なんとも味のある書体です。


行先表示機。

当時のまま残されています。
現役時は方向幕が小さいこともあり、系統版を必ず併用していたようです。


方向幕は気まぐれで、違う行先になります。
どの行先になっても、表示された駅に電車が到着することは永遠にないでしょう。


運転台A

ツーハンドル式の運転台です。
シドニーの1054号はシドニーセントラル側の運転台をA、ナショナルパーク側の運転台をBとしています。


運転台B

三菱のロゴマークが刻印されています。


放送装置。

運転台Bには、クラリオン製の車内放送装置が設置されています。


運転中話しかけお断り

オーストラリアのライトレールにも運転室付近に似たような文言が書かれています。


非常ベルと発車ベル

電子音ではない、本当の鐘の音です。


危難守護のお札。

1054号は2016年5月にシドニーの車両J675と衝突する事故を起こしました。
修理が完了し、2018年に動態運転に復帰しました。
どうやらお札のご利益は異国のオーストラリアでも有効なようです。
なお、もう一つの事故車両となったJ675は修理中で、2020年現在も復帰していません。


車内。

ロングシートの座席と板張りの床が特徴です。
特にオールロングシートの車両は珍しく、クロスシート大国のシドニーでは異質の存在です。
シドニーの鉄道においては、2019年5月26日に シドニーメトロ メトロポリスTSsetが導入されるまで、1054号が 唯一運行しているオールロングシート車両でした。


車内広告。

日本の広告が残されています。
写真のJALパッケージツアーのブランドである、JAL STORYは現在消滅しています。
また、ディズニーリゾートの募集商品ですが、当時(2001年3月末までのキャンペーン)は2001年9月に開業したディズニーシーは まだ存在していません。


1054号のA側(シドニーセントラル)にある車両案内。

仙台時代の写真と共に、車両の経歴が紹介してあります。
内容から察するに、シドニートラム博物館よりも前、長崎電気軌道の時代に設置されたものと思われます。


仙台市電(121号)経歴紹介

1054号電車は昭和27年7月、新潟鉄工所で製造されました。
この車両は、仙台市内初のボギー車80形として登場じたもので、昭和29年に100形と改称、 昭和44年ワンマン化工事の際、両側ドアであったものを乗降扉を中扉に改造、正面窓も 3枚窓から変速(※原文ママ)2枚窓に改められました。
昭和51年3月末、仙台市電の全廃と同時に車体を、西日本鉄道北九州線の車両より 台車のみを譲り受け、西鉄産業久留米工場で長崎電軌仕様に変更改造、同二日市工場で車体 と台車の結合改造を行い竣工、昭和51年10月6日浦上車庫でテープカット拍手の中で出発式を行い 営業に入りました。
尚、1050形車号の名称は仙台市電になぞらえてセンダイ(1000番台)とし、昭和51年運転開始に当たり 1050台とした1051~1055号の内の1台である。

型式:1050形
製造年:昭和27年
製造所:新潟鉄工所
譲渡年月:昭和51年4月
前所有者:仙台市交通局
長×幅×高:11,400×2,174×3,685
定員:84名
自重:14.0トン
備考:旧車号 121号

※「変速2枚窓」は「変則2枚窓」が正しい表記となります。



1054号のB側(ナショナルパーク)にある車両案内。

長崎時代の写真と共に、車両の経歴が紹介してあります。

車両の経歴はA側と同じ内容です。


降車扉上部。

最後の検査は引退の半年前、1990年(平成2年)6月に受けていました。
運賃の均一100円という設定は、現在は130円に変更されています。


乗車扉上部。

お降りの方は前扉から


ドアの注意喚起表示。

危険 作動中の扉に手をふれないで下さい
危険 ドアの開閉に御注意下さい

大事なことなので、2回表記されています。


降車用押しボタン。

お降りの方はこのボタンを押してください

現在の運用では押される機会はありません。


ドアステッカー。

ドアの注意喚起と一体となった広告。
近年はこういった広告と一体となったステッカーは殆ど見かけなくなりました。


車両紹介を兼ねた広告。

慶応2年(1866年)創業の江戸時代から続く茶碗蒸が有名な長崎郷土料理店「吉宗」 の広告と、車両経歴の紹介がされています。
紹介内容は先ほどの運転席後部の車両紹介文と概ね同じことが書かれていますが、 こちらの方が文章の体裁が整っています。

正面窓の解説が、こちらは「変則2枚窓」と、正しい表記になっています。


お客さまにお願い。

長崎電気軌道株式会社による乗客向けの乗車案内と危険物持込禁止の告知です。


1054号が出庫し、ナショナルパーク線の体験乗車車両に入りました!
変わりにシドニー生え抜きの2001号が入庫しました。

異国情緒漂う停留所で乗客を待つ長崎電気軌道1050形1054号(元仙台市電モハ100形121号)


メルボルンの旧型トラムY1-611号とすれ違い。

Y1-611号は1930年製造の車両です。
曲面ガラスが無い時代に、平面ガラスを組み合わせて丸みを帯びた前面に 仕立て上げた秀逸なデザインです。 メルボルンのトラムはかつて緑色を基調としていたため、長崎電気軌道の車両と 馴染んでいます。


発車を待つ赤迫行きの表示を掲げた1054号。

この日は常に2両体制で、ナショナルパーク線の運用についていました。
ナショナルパーク線は棒線のため、続行運転をしない限り、先に出て行った車両が 帰ってこないと次の車両は発車しません。


蛍茶屋←→正覚寺 の行先を掲げ、乗客を待つ1054号

細かいことを言うと、この場合、系統番号は4番ですが、5番が掲げられています。
5番系統は蛍茶屋←→石橋です。
現役時にはないバラバラの表示を楽しむことができます。


ナショナルパーク線を走行し、終点ナショナルパーク駅に到着しました。

路面電車の走るこのナショナルパーク線は、1886年に開業した歴史ある鉄道線で、通常の鉄道路線の1つでした。 1区間しかない盲腸線で、利用は国立公園の訪問者に限られました。末期は25本程の本数で1列車当たり3人しか乗客がいなかったため、1991年に廃止となりました。 1993年にトラム博物館が動態保存用として管理することになり、現在も重厚な鉄道設備の上を小さな路面電車が軽快に走ります。


ナショナルパーク駅に停車中の1054号。

本来の鉄道用のプラットホームは高すぎるため、使用していません。


当時から1区間のみの盲腸線であったナショナルパーク線。

架線中やホームが普通の鉄道用で、路面電車に似つかわしくない重厚な装備です。


ナショナルパーク駅発、2号系統の赤迫行き電車!?

長崎電気軌道における2号系統は、深夜に赤迫発蛍茶屋行の1便が運行しているのみ赤迫行きは存在しません。
片道一本のみの系統のため、路線図などにも表示されていません。
2015年10月11日に公会堂前で脱線事故が発生した際に同年10月14日から2016年5月22日まで(深夜1往復以外にも)2号系統が運行されてたそうです。


ナショナルパーク駅での乗降は、特にホームも設置されておらず、直接地面に 降りる形となります。
殆どの路面電車は車高が低いため、わざわざ用意する必要もないということでしょう。


番号系統板の中に、浦上車庫が入っていました!

入庫運用時に使用していたものと思われます。


赤迫行きの浦上車庫止めとなった1054号。
浦上車庫で赤迫行きに連絡するのでしょうか?!


短い散策を楽しんだ後、車両へと戻ります。

乗ってきた電車に乗らず、次の電車で帰っても良いみたいですが、殆どの乗客は乗ってきた 電車でそのまま帰ります。


1日の運用を終えた1054号。

車庫へ分岐する引込み線で一旦停車しました。
この日は午後に2往復運行した後、入庫と同時に閉園となりました。


車庫へと引き揚げていく1054号。

隣の保線用のトラックも良い味をしている年代物です。


オーストラリアのシドニーにあるトラム博物館にて動態保存されている長崎電気軌道1050形1054号(元仙台市電モハ100形)による博物館所有のナショナルパーク線往復全区間4K前面展望映像です。


シドニーで個性豊かな車両に囲まれて元気に過ごす1054号。
仙台市電、長崎電気軌道1050形の車両の中で、一番幸運な余生を過ごしている 車両といえるでしょう。


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